「相続人の中に何十年も連絡が取れない兄弟がいる」——意外と多いケースです。協議には全員の参加が必要なので、行方不明者を放置したまま手続きは進められません。本記事では、家庭裁判所を使った2つの制度を解説します。
まず大前提:一部欠けた協議は無効
相続人全員が参加しない遺産分割協議は無効です。「20年も音信不通だから無視していい」とはなりません。
代わりに、
- 不在者財産管理人を選任して代理させる
- 失踪宣告で法的に死亡扱いにする
の2つから選びます。
不在者財産管理人とは
行方不明者の財産を家庭裁判所が選任した管理人に守らせる制度(民法25条)。
「生きているかもしれない」を前提に、本人の財産を保全する仕組みです。
選任の流れ
- 利害関係人(他の相続人など)が家庭裁判所に申立て
- 家庭裁判所が候補者の適性を審査
- 選任後、管理人が遺産分割協議に参加できるよう、権限外行為許可を別途申し立てる
- 許可が出れば、管理人が不在者の代わりに協議に参加・署名押印
申立てから選任までは1〜3か月程度、権限外行為許可も含めると半年程度を見込む必要があります。
不在者財産管理人になれる人
- 親族(推奨されないケースが多い)
- 司法書士・弁護士などの専門家
- 利害関係のない第三者
実務上は、専門家が選任されることが多いです。
費用
- 申立手数料:800円程度
- 予納金:20〜100万円程度(管理人の報酬の原資)
予納金は不在者の財産があれば返ってきますが、手元から先払いが必要です。これが大きな負担になります。
失踪宣告とは
一定期間行方不明の人を、家庭裁判所の宣告により法的に死亡したものとみなす制度(民法30条)。
死亡扱いになるので、その人の相続人が代わりに権利を引き継ぎます。
2つの類型
| 類型 | 要件 | 死亡とみなされる日 |
|---|---|---|
| 普通失踪 | 7年以上行方不明 | 7年経過した日 |
| 特別失踪(危難失踪) | 戦争・震災・船舶沈没等で生死不明、危難が去ってから1年 | 危難が去った日 |
失踪宣告の流れ
- 利害関係人が家庭裁判所に申立て
- 家庭裁判所が官報公告等で本人探索(3〜6か月)
- 一定期間応答がなければ失踪宣告
- 戸籍に「死亡とみなされた」旨が記録される
宣告までは半年〜1年ほどかかります。
失踪宣告後
行方不明者は、死亡とみなされる日(普通失踪なら行方不明から7年が経過した日)に亡くなったものとして扱われます。実際の遺産分割協議には、行方不明者本人ではなく、その人に代わる相続人が参加することになります。
このとき、相続関係は**「死亡とみなされる日」と「元の被相続人が亡くなった日」の前後関係**で変わります。
- みなし死亡日が、元の被相続人の死亡より前の場合 → 行方不明者は初めから相続人ではなかったことになり、その子が代襲相続します。
- みなし死亡日が、元の被相続人の死亡より後の場合 → 行方不明者はいったん相続人になった後に亡くなった扱いとなり、その相続人が引き継ぐ数次相続になります。
どちらに当たるかで参加者が変わるため、判断に迷うときは専門家に確認するのが安全です。
どちらを選ぶか
| 比較項目 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 前提 | 生きている可能性あり | 死亡したと推定 |
| 期間 | 1〜3か月(許可含めると半年) | 半年〜1年 |
| 費用 | 予納金20〜100万円 | 収入印紙800円+官報公告料5,298円+郵便切手 |
| 死亡扱い | しない | する |
| その後の相続関係 | そのまま | 代襲相続または数次相続が発生 |
不在者財産管理人が向くケース
- 7年経っていない
- 「生きているらしい」情報がある
- 急いで遺産分割を進めたい
失踪宣告が向くケース
- 7年以上消息不明
- 戸籍を最終的に整理したい
- 不在者の財産が少なく、予納金の負担が重い
相続登記との関係
どちらの制度を使っても、遺産分割協議をまとめるまでに時間がかかります。義務化の3年期限を考えると、
- まず相続人申告登記で時間を稼ぐ
- 同時並行で家庭裁判所の手続きを進める
- 協議が完了したら正式な相続登記へ
という段取りが現実的です。
行方不明者を探す前にできること
- 戸籍の附票を取得して最後の住所を確認
- 探偵・行方調査会社に依頼
- 共通の親戚に連絡
- SNS等で探す(最近は意外と見つかる)
「いきなり家裁」ではなく、まず探してみるのも選択肢の一つです。
まとめ
- 行方不明の相続人を抜きに協議は進められない
- 不在者財産管理人:生存前提、予納金が必要
- 失踪宣告:7年以上不明、死亡扱い
- 時間がかかるので、相続人申告登記で義務化期限に対応
- まずは戸籍附票・調査から始めるのも選択肢
行方不明者がいる相続は時間と費用がかかります。早めに弁護士・司法書士に相談し、適切な制度を選びましょう。